7月 ルビーの輝きと真っ赤な嘘 ~ 第7話

月菜は休日の昼下がり、読みかけの本をとじた。
今お気に入りのその本は「月夜航路」
何年か前に出版され最近ドラマ化された。
人気女優の若手と中堅の二人の掛け合いが絶妙でホームズとワトソンよろしく謎を解いていく話。
女流作家のこの作品は、最近の手の込んだ推理小説と比較するととても素直なシナリオでドラマも原作のストーリーを忠実に再現しており、安心して読んで(見て)いられるのがとても心地よい。
某テレビ局の人気シリーズ「AIB〇」のような脚本のジェットコースター感がなく四転、五転を一話で繰り返さないと気が済まない作品とは一線を画すものだ。(あれも最近は脚本がマンネリになってきていて、次の展開が見えてだんだん飽きてくるのだが)
作品に流れる穏やかさは、登場する実在(した)作家が明治から昭和のノスタルジーを覚える“文豪“である事に依存する部分があるのかもしれない。
最近、直木賞や芥川賞作家をめざす方でもないと昔ほどは一般には読まれなくなった方たちだ。
その方たちの作品を一つや二つは名前は知っていても実は作品をちゃんと読んだことないという人も増えているのではないか。
月菜が気になったのは、ドラマの影響もあるが主人公がルナという名前だったのも大きい。
自分も月の菜と書いて”ルナ“と読むからだ。
自分にも久美子という親友がいるのも親近感を感じた。
外は初夏。鎌倉から逗子にかけての閑静な住宅街には時折リスが庭や電柱を駆け回る風景を見かける。
鎌倉は都内と違ってやわらかい空気が街にながれている。
窓を開けて庭の風を呼び込みながら、今日連売所で買ってきたシフォンケーキを食べては濃いディンブラの紅茶を飲んでいる。
“レンバイ“もしくは”のうきょう“は正式名称は” 鎌倉市農協連即売所“。
近隣のレストランだけでなく、都内からも鎌倉野菜を買いに来るシェフが多いらしい。
月菜も朝早く江ノ電に乗って買い出しに出かけることがある。
そんなおなじみな所でも普段“レンバイ“としか言わないでいると「あれ、正式名称なんだったけ」となりがちだ。
もっともお金持ちの鎌倉マダムは”紀伊國屋”や”ユニオンUNION”で買い物するのだろう。
(紀伊国屋は意外と野菜がお手頃で新鮮なのだ)
テーブルの上には懐かしい友達から来たハガキがのっている。
「今度の横浜のミネラルマルシェ 知り合いの手伝いで参加しているから来てね 留依」
古い友人の留依からだった。もっとも古くから友達のみんなは“トメちゃん“と呼んでいるけれど。
はがきに書かれたチェリーの赤いイラストを見た時、彼女と知り合うことになったある事件?を
思い出していた。
それは月菜がまだ中学生だった頃の話。
月菜は父親に連れられて横浜の中華街へ来ていた。アクセサリーも扱う店を楽しそうに見ていたが
ふと軒先のアクセサリーに赤く光る髪留めが目にとまった。
何とはなしに手に取ってみていると奥から「お嬢さん 目が高いね。今なら安くしとくよ」
と店員がでてきた。
「こんな高そうなの買えないです。これってルビーですか? とてもきれい」
「これはガーネットだよ。でもちゃんとした天然石だからね。質もいいよ。」
「こっちの透明度でない赤い石は実はルビーだよ。宝石ではないけどね。」
「へえ、光沢がなくてもルビーなんだ。」
月菜は、ガーネットと言われた髪留めをつけてみて鏡に写した。
値段は格安でとても似合っている。
上目遣いに父親をみると、誕生日プレセントだと言って気に入ったなら買ってあげるよと言われた。
「ほんと、うれしい! おじさん これ、ください。」
父親が髪につけてくれると、月菜は嬉しそうに父親の腕をとった。
そのまま散歩を続けていると、少し裏通りに入っていった。
「中華街は、裏通りに結構いい店があったりするからね。」
目についた一軒にはいると、本当に当たりだった。
表通りの一流飯店のような高級一品はおいてないが、どれもリーゾナブルなのに味は思わず目を開く位おいしかった。
結構な量をぱくつき、最後に杏仁豆腐でしめた。
この杏仁も寒天のまがい物でなく、ちゃんとしたアンニンだった。
二人は満足そうに会計を済ませると店を後にし、さらに腹ごなしがてら散歩を続けた。
街のはずれを抜けたあたりに一軒の露天商のような小さな店がでていた。
街の端にあるにも関わらず店先には指輪やペンダント、イヤリング・ピアスといったアクセサアリーが並び、若いカップルや中年の夫婦らしき人で混みいあっていた。
店の一角には“質流れ”と書かれた大きなボックスがありその中にいろいろなアクセサアリーが無造作に並んでいた。
若いカップルがその中から、それなりにけっこう大きな赤い石のついた指輪を手に取った。
「ウワー!これキラキラして素敵。私の指のサイズにぴったり。おじさん、これいくら?」
「お嬢さん目が肥えてるね。これはある宝石店の倒産処分品なんだけどルビーでね。10万円だけど元は20万円以上する価値があるよ。」
「智也さん、あなた宝石に詳しいんでしょ。これどう?」
「どれどれ、・・・カットは古いけどちゃんとした天然石みたいだ。これだけ傷がなくて透明度が高ければ結構お値打ちだよ。」
連れの子はすごく欲しそうな顔になりおねだりし始めた。
男はしばらく迷っていたが、店主に今日は最終日だから8万円でいいよと言われると、いいところを見せようとしたのか現金をだして購入した。
「ウワー!じゃつけてみるね。」
光にかざして「きれい・・・」と歩きながら眺めている。男も抱き着かれてまんざらではない様子。
後ろにいた若い高校生らしき女子ふたりがひそひそ話しているのが聞こえた。
「いいわねえ、私もあんな彼氏ほしい。」
「やめときなよ、まともに石もわからない彼氏なんて。」
「え、あれルビーじゃないの?」
「まあ、素材はコランダムだからルビーと言ってもいいかもしれないけど、あまりきれいなものじゃないわ」
「え、あんなにキラキラ光っているのに?」
「鉛で含侵処理して透明で傷がないようにみせているの。価値はそんなにないよねえ。」
そういうと、その女の子は月菜の髪留めに目をとめた。
「素敵なガーネットの髪留めね!」
「ええ、さっき向こうのお店で買ったの。」
「表面に膜がついて少して汚れているけど、きれいに拭いてあげればもっと輝くわよ。」
「前の持ち主がいたずらしたのかも・・・。」
といって、眼鏡拭きのような布を差し出してきた。
月菜は、一瞬怪訝な顔をしたが真面目そうなその子の目をみたらそのまま布を受け取り一度拭いてみた。
すると今までより一層深い赤色が増し、光にキラキラ反射しだした。
「すごい! こんなに変わるのね。」
「私のうち、この近くでジュエリーショップやっているの。手ごろなものも置いているから今度寄ってみて。」
「私、留依って言います。」
そんな縁で知り合ってから、二人は実は同じ年だと知り、その女の子の父親の店へ行くようになり間もなく仲良しになった。
後日談ではあるが、二人が店の奥でおしゃべりしているとき前に路地奥のお店から指輪を買った子がこの前一緒だった男と婚約指輪を買いに来ていた。ふと女の子はこの前買ったルビーを鑑定してもらおうと思い立ち、指輪を見せた。
店主は、こういった。
「残念ながら鉛で処理した指輪なので普段のイミテーション替わりに気軽につかうのをお勧めします。」
「え、」というと憤然とした顔で相手の男にどういうこと!と詰め寄った。
その後二人が喧嘩を始め、店を早々に出ていった。
「お父さん、指輪売りそこなったわね 笑。」
「まあ、買ってもらってもなあ。ここの指輪もうまくいくがわからない人のところにいくのもかわいそうだ。」
ちょっと惜しいことしたな、と呟きながら月菜にゆっくりしていってねと言うと店主は奥へ引っ込んでいった。
月菜と留依は何もなかったかのように、おしゃべりを続けた。
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「みなとみらいかあ、しばらく行ってないな。」
「留依に会いたいしマルシェで何か買ってみてもいいか。留依がいるから損することないし。」
そうつぶやくと、残りのシフォンケーキにフォークを刺して最後の一口をほおばった。
【注】登場人物の名前や店名は架空のものであり、実在の人物、店舗とは全く関係がありません。-


【誕生月石】
ここでは、登場する7月について
7月 誕生石 ルビー、スフェーン
・ 誕生守護石 インカローズ ホワイトハウライト
7月の誕生石は宝石の女王 ”ルビー” です。
ルビーは、赤色宝石ではもっとも高価な天然石の一つでコランダムという鉱物の仲間です。コランダムの仲間にはサファイヤがあります。コランダムは含有成分でいろいろな色が存在します。青い石からオレンジ、緑、黄色、レインボー、バイカラーなどありますが、クロムが含まれて赤くなったものだけをルビーと呼びます。
最高級の鮮やかな赤色は「ピジョンブラッド(鳩の血)」と呼ばれ非常に高価です。
石言葉:情熱、良縁、勝利、不滅の愛
パワーストーンとしての効果は、持ち主のエネルギーを高める。困難に打ち勝つ自信を作る。勝利をもたらすお守りとされます。
誕生石を知りたい方は、こちらの参考サイトもどうぞ
【出展】366日の誕生石
https://differencee-jewel.com/daily-birthstone/
星座の石:かに座の星座石は”パール”、”ムーンストーン” 後半のしし座の星座石は”ペリドット”、”カーネリアン”、”サンストーン”があります。